ヘラクレスオオカブトの幼虫に菌糸ビンは使える?発酵マットとの違いと飼育実験の結果
ヘラクレスオオカブトの幼虫飼育

ヘラクレスオオカブトの幼虫に菌糸ビンは使える?発酵マットとの違いと飼育実験の結果

クワガタの飼育をしたことがある方や、ショップで菌糸ビンの棚を見かけた方なら、「ヘラクレスオオカブトの幼虫も菌糸ビンで育てたら、もっと大きくなるのでは?」と考えたことがあるのではないでしょうか。ところが調べてみると「向かない」という話と「育った」という話の両方が出てきて、どちらを信じればいいのか迷ってしまいますよね。

実は、この2つの話は矛盾していません。菌糸でヘラクレスを羽化まで育てた実験の記録は確かにあるのですが、大きさも飼育期間も発酵マットとほとんど変わらなかったと報告されているのです。

この記事を読めば、菌糸ビンと発酵マットの違い、その実験で何が起きたのか、そして手元の幼虫に何を与えればよいのかが分かるでしょう。

この記事のまとめ
  • ヘラクレスの幼虫は発酵マットで育てるのが基本。菌糸ビンは販売元の案内でも原則使わない
  • 菌糸で羽化した実験はあるが、大きさも期間もマットとほとんど変わらなかったという報告
  • きのこマットと菌糸ビンは別物。きのこマットは菌糸ビンではなく発酵マットの仲間

ヘラクレスオオカブトの幼虫に菌糸ビンは使える?

答えを先に言うと、ヘラクレスオオカブトの幼虫には発酵マットを使い、菌糸ビンは選ばなくて大丈夫です。入れたら必ず死んでしまう、という話ではありません。ただ、手間と費用をかけてまで選ぶ理由が見当たらないのです。

販売元の案内は発酵マットが基本

きのこ栽培からクワガタ・カブトムシ用品に広げた月夜野きのこ園は、菌床・菌糸ビンの解説ページで、カブトムシの飼育には菌糸ビンや菌糸ブロックを原則使わないと案内しています。ビートルファームのQ&Aでも、カブトムシの幼虫は基本的に菌糸ビンの飼育に向かないとされ、フォーテックの解説にも適さないと書かれています。専門店の案内がそろっているので、初めての方はこの基本どおりに進めるのが安心でしょう。

育たないわけではないが選ぶ理由が薄い

一方で、次の章で紹介するとおり、菌糸を食べて羽化まで進んだ例はあります。ヘラクレスの幼虫に菌糸ビンがなぜ向かないのかを、比べる試験で示した資料は私が調べた限り見当たりませんでした。そのため「毒だから使えない」と言い切ることはできません。

それでも発酵マットをすすめるのは、菌糸で育てても大きくなる実績が見えないからです。フォーテックの解説によると、菌糸ビンはえさ用マットより費用がかかります。費用が増えるのに、大きく育つ利点がこの報告からは読み取れないのであれば、私個人的な意見ですが、そのぶんをマットの質や温度管理に回したほうが幼虫のためになるかと思います。幼虫の飼い方全体はヘラクレスオオカブトの幼虫の育て方にまとめています。

はると

クワガタの飼育経験がある方ほど「菌糸のほうが大きくなる」という感覚があるので、試したくなる気持ちはよく分かります笑

ヘラクレスを菌糸で羽化させた飼育実験

菌糸でのヘラクレス飼育を語るうえで外せないのが、月夜野きのこ園の実験です。2009年の12月に始まり、開始時の報告から最終報告まで4回に分けて記録が公開されています。

幼虫 菌糸飼育の経過と体重

使われたのは菌糸ビンではなく、飼育ケースのクリーンケースSに菌床Eブロックを切って詰めたものです。ここへ2齢幼虫を1頭ずつ、合わせて3ケース入れ、25℃前後で管理しています。途中経過の報告には、体重測定の結果も残っていました。

日付記録
2009年12月12日2齢幼虫を菌床へ投入(3ケース・25℃前後)
2010年2月9日生存を確認。食べた跡が広がる
2010年3月9日体重約38g
2010年6月10日菌床ブロックの3分の1を追加
2010年7月12日体重82g
2011年3月25日羽化。計測は125mmUP

羽化までの期間は、2齢で投入してから約16か月と報告されています。途中の体重は約2倍に増えており、菌糸を食べて育っていたことが分かりますね。もう驚きです!

月夜野きのこ園の菌糸飼育実験の流れ(2齢で投入→体重約38g→体重82g→羽化125mmUP)

実験から分かることと分からないこと

最終報告の結論は、菌糸で育てることには成功したものの、大きさと飼育期間はマットとほとんど変わりがないように思う、というものでした。良かった点としては、コバエなどの雑虫に悩まされなかったことが挙げられています。

ただし、この結果を読むときには気をつけたい点が4つあります。1つ目は、羽化の報告が1頭分で、残りのケースがどうなったかは書かれていないことです。2つ目は、同じ条件で発酵マットの幼虫を並べて比べた実験ではないことです。3つ目は、管理温度が通年25℃で、幼虫の温度の目安にしている20〜23℃より高いことです。4つ目は、飼育ケースが小型のクリーンケースSのままで、基本の約10Lより小さいことです。つまり「菌糸では125mm止まり」とも「菌糸でも大型になる」とも言えず、1つの飼育例として受け取るのがちょうどよいかと思います。

はると

大きさを狙うなら、エサの種類を変える前に血統と温度とマットの質を見直すほうが近道だと私は思っています。

菌糸ビンと発酵マットの違い

見た目が似ていて、どちらも「木の粉」から作られているので混同しやすいのですが、この2つは作り方も役割も違います。

菌糸ビンはきのこ菌が生きているエサ

菌糸ビンは、フォーテックの解説によると、粉砕した広葉樹にきのこの菌を植えて、木の成分であるリグニンを分解させたエサです。もともとはきのこ栽培の技術から生まれたもので、月夜野きのこ園の解説でも、オガを殺菌してから菌を植えつける流れが紹介されています。菌が生きているので、温度が高いほど活発に働き、保存は冷蔵庫の5℃程度で6か月ほどが目安とされています。

発酵マットは微生物で発酵させたエサ

発酵マットは、月夜野きのこ園の解説によると、おが屑などを発酵させて幼虫が食べやすくしたものです。こちらも微生物が生きている状態なので、買ってきた袋をそのまま使うと発酵が進んで熱やガスが出ることがあります。使う前に発酵マットのガス抜きが要るのはこのためです。

ヘラクレスの幼虫は何を食べる?

ヘラクレスの幼虫が食べるのは、マットそのものです。月夜野きのこ園のエサの選び方でも、カブトムシは幼虫飼育にも産卵にも発酵マットを使うと案内されています。ケースの中のマットは幼虫の住まいであり、同時に毎日のごはんでもあるわけです。違いを表にすると次のようになります。

比べる点菌糸ビン発酵マット
主な用途オオクワガタなど適応するクワガタカブトムシ全般とクワガタ
中身広葉樹のオガ+きのこの菌おが屑などを発酵させたもの
ヘラクレスの幼虫原則使わない基本のエサ
費用えさ用マットより高い抑えやすい
使う前の準備飼育する環境に1〜3日置くガス抜き1週間ほど+詰めて3日ほど様子を見る
交換の目安3か月(クワガタの場合)2〜3か月に1回

菌糸ビンの準備と交換の数字は、クワガタ幼虫の菌糸ビン飼育の案内のものです。ヘラクレスで同じ間隔が合うかどうかは確かめられていないので、参考程度に見てください。

菌糸ビンと発酵マットの比較(菌糸ビンは広葉樹のオガときのこの菌でヘラクレスの幼虫には原則使わない、発酵マットはおが屑などを発酵させた基本のエサ)

きのこマットと菌糸ビンは別物

「きのこ」という言葉が入っているので、きのこマットを菌糸ビンの仲間だと思っている方もいるのではないでしょうか。ここは名前で迷いやすいところなので、整理しておきましょう。

きのこマットは発酵マットの仲間

月夜野きのこ園の「きのこMat」は、同社が発酵マットとして販売している商品です。同社の解説では、発酵マットはきのこの菌が一度分解したものを基本の材料とし、そこへ空気を入れて発酵を促すと説明されています。菌糸ビンのように固めた菌床をかじらせるエサとは使い方が別です。ガス抜きをしてケースに詰める、ふつうの発酵マットとして扱えば大丈夫です。

幼虫に使うマットの選び方

どの銘柄にするかは、ヘラクレスオオカブトの幼虫飼育用マットのおすすめランキングで詳しく比べています。私のランキングではきのこMatを1位にしていて、理由はコスパの良さです。3齢のオスは1回の交換で10リットル近く使うので、まとめ買いできる50リットル袋が向いています。月夜野きのこ園のエサの選び方では、迷ったらまず完熟Matを、と案内されているので、少量から始めたい方はこちらも候補になるでしょう。

菌糸ビンを試す前の注意点

それでも実験として試してみたい方もいるでしょう。ここでは、記録や販売店の案内から分かる注意点をまとめます。クワガタ向けの情報も含むので、ヘラクレスに必ず当てはまるとは限らない点は頭に入れておいてください。

きのこが生えやすい

菌が生きているので、条件がそろうときのこが生えてきます。実験の最終報告では、菌糸部分が残っているうちに加水すると勢いよくきのこが生えると書かれていました。ビートルファームのQ&Aでは、1日の温度差が大きい場所もきのこの原因に挙げられています。

中身が崩れて乾きやすい

食べ進むと菌糸は崩れ、実験でも途中からマット状になっていました。2回目の報告では、かじった跡が少し乾いていたので水分を足したとあります。ただ、先ほどのとおり加水にはきのこのリスクがあるので、菌が残っているかどうかを見ながらの調整になります。

カビと幼虫の様子を毎回確かめる

菌糸にアオカビが広がったときは、幼虫によくないのでビンを交換するようビートルファームのQ&Aで案内されています。また、エサや環境が合わないと幼虫が上に出てくることがあり、実験でも投入から2週間ほどで、フタに挟んだ新聞紙を破って上に出た形跡が記録されています。上に出たままの日が続くようなら、発酵マットへ戻すことを考えましょう。

はると

試すなら、大切な本命の幼虫ではなく、自由研究のつもりで余裕のある1頭だけにするのが私のおすすめです^^

発酵マットで大きく育てる基本

菌糸ビンに興味を持つのは「もっと大きく育てたい」からだと思います。その気持ちは、発酵マットの管理を丁寧にすることでも十分に生かせます。

ガス抜きと水分を整える

新しいマットは広げてガス抜きをし、山の土のようなにおいになったら水分を調整します。握って形が残り、水はにじまない程度が目安で、ケースに詰めて3日ほど発熱がないことを確かめてから幼虫を入れましょう。

フンが目立ったら交換する

マットの表面に黒い粒状のフンが目立ってきたら、交換のサインです。頻度は2〜3か月に1回が基本で、古いマットを少し残すと環境の変化を抑えられます。やり方は幼虫のマット交換の記事で手順を追って解説しています。

温度と3齢の期間を大切にする

幼虫の温度は20〜23℃を目安にし、25℃を超える管理が続くと早く羽化して小さくなりやすいので気をつけてください。成虫の大きさは3齢の間にどれだけ体重を乗せられたかでほぼ決まるので、卵から成虫までの育ち方を見ながら、この時期の管理に力を入れるとよいでしょう。大型を目指すときの考え方はヘラクレスオオカブトの大きさの記事でも紹介しています。

菌糸ビンと幼虫飼育のよくある質問

最後に、菌糸ビンを調べていると出てきやすい疑問に答えていきます。

菌糸ビンに入れると幼虫は死ぬ?

入れた瞬間に死ぬようなものではなく、実験では投入から7か月後の測定でも元気に育っていたと報告されています。ただ、菌糸で育てたときの死亡率を示す資料は私が調べた限り見つからなかったので、安全とも危険とも数字では言えません。動かなくなったときは、エサの種類だけでなく温度や酸欠も含めて幼虫が死んだかの見分け方と原因を確かめてみてください。

菌糸ビンだと幼虫のままになる?

実験の個体は、報告では2齢で投入してから約16か月で羽化していて、幼虫のまま止まったという記録ではありません。ヘラクレスはもともと孵化から羽化までオスで約1年半〜2年かかる生き物なので、長く幼虫でいること自体は珍しくないのです。目安は幼虫期間の記事で確認できます。

途中で発酵マットに戻してもいい?

私なら、次の交換のタイミングで発酵マットへ戻します。月夜野きのこ園のFAQによると、マットを切り替えたときに稀に食べなくなることがあり、その場合は交換前のマットに戻して様子を見るとされています。切り替えたあとは、潜っていくか、フンが出るかを見守ってあげてください。

園芸用の土で育てられる?

マットが土に見えるので代用できそうに思えますが、幼虫のエサには発酵マットを用意してください。フォーテックの解説によると、マットは朽ち木を粉砕したもので、ホームセンターで夏場に並ぶ成虫用のマットも、そのままでは幼虫飼育に使えないとされています。

朽ち木や白いカビは問題ない?

朽ち木は必須ではありません。月夜野きのこ園の飼育担当者のコメントでは、自身は入れないものの、入れれば幼虫が食べるのでマット交換の時期が少し延びるかもしれないとされています。発酵マットの表面に白いカビのようなものが出た場合も、国産カブトムシの幼虫の質問への回答ですが、ビートルファームのQ&Aでは幼虫が死ぬ原因にはならないとして、表面のものを取り除けばよいと案内されています。

はると

見慣れないものがマットに出ると焦りますよね。まずは幼虫が元気に潜っているかを見てあげてください。

まとめ

ヘラクレスオオカブトの幼虫は、発酵マットで育てるのが基本です。菌糸で羽化した実験はありますが、大きさも期間もマットとほとんど変わらないという報告で、わざわざ費用をかけて選ぶ理由は見当たりません。きのこマットは名前こそ似ていますが発酵マットの仲間なので、安心して使ってください。

手元の幼虫に合うエサが決まれば、あとはじっくり育てるだけです。この記事が少しでも役に立ったのなら嬉しいです。

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